介護業界の実態

「介護まめ家」設立に至るまでの経緯

まずは伊永さんのこれまでの経歴を教えて頂けますか?

まずは伊永さんのこれまでの経歴を教えて頂けますか?

私の場合は特別養護老人ホームに勤めることで、介護のキャリアをスタートさせました。
仕事は忙しく一生懸命働いていたのですが、経験を積むにつれて仕事をやりきれていない不安が出てきました。
そして「一人一人ともっと向き合った介護をやりたい」と考え、次にグループホームに勤めました。

そこのグループホームでは仲間にも恵まれ、職場の意識も高く、一人一人としっかり向き合った介護が出来ました。
しかしそのうち施設を経営していくお金と介護の質のバランスの部分で、私たちの目から見てだんだん施設の形が変わったように見え辞めました。
どちらも悪い職場ではなかったのですが、自分に知識がついていくことによって辞めざるを得なくなったという形です。

知識がつくにつれて視野が広くなっていったんですね。

そうですね。そして次の職場を探し始めました。
キャリアも資格もあるので次の就職も困らないだろうと思っていたのですが、知識が付いている分、職場の様々な部分が見えてしまいなかなか就職が出来ませんでした。
そうして最後には「介護を辞めるか」「独立をするか」というところまでいきました。
そして「辞めるのならば独立してやろう」と思いました。

今の介護業界の中での「介護まめ家」としてのあり方

そして「介護まめ家」を設立されました。
他の施設とは違う特徴を教えて頂けますか?

そして「介護まめ家」を設立されました。他の施設とは違う特徴を教えて頂けますか?

お客様と契約関係ではなく、信頼関係で繋がることを大事にしています。
私はお年寄りのことを知ることはその方の物語を知ることと考えており、次に「私たちは何をすべきか」「相手は何を求めているか」を考えることで、その物語に参加していくと感じています。
コチラの形は決めず、まずは「その人にとって何が必要なのか」を中心に考え、介護保険に当てはまらないことは介護保険の外でやっていくのです。
しかしそのためには信頼関係がないと成り立ちませんので、そのために時間を使っていきます。
今の介護業界は自分のリスクを管理する為、介護保険を使った「これは出来ます」「これは出来ません」といった契約関係でお客様と繋がっています。
しかし契約関係では本当の信頼関係は生まれません。やはりリスクというものはお互いがシェアしていくものなのです。

個人個人としっかり向き合い、その時のニーズに合わせて臨機応変に対応していくのですね。

デイサービスに来られるお客様が本当に切羽詰まる場合というのが、突然入院したり、状態が変わってしまったり、という時です。
しかしあらかじめ作ってあるプランに沿って介護を行う介護保険ではそういった場合には対応できません。契約関係には入っていないという事で、一番大事な時に誰も力になってくれないのです。
そういった誰を宛てにしたらいいのかわからないといった部分を「介護まめ家」ではどう担っていくのか。介護保険の縛りもある中で、上手く辻褄を合わせ一番大変な時に力になっていくという事を考えています。
そうしないと本当に家族が切羽詰まった時に「もう無理なので施設に」ということになります。
その時今の介護のシステムだとケアマネージャーさんが「施設に入りたい」という事をお客様のニーズとして受け取り、仕事をします。
しかし施設に入る場合もお互いがきちんと納得できるだけの手続き踏まないと「今が大変だから」という理由だけで施設に入れてしまっては駄目なのです。

確かに施設に入るまでの過程を大切にしないと、後々ご家族が傷つくことになりかねませんね。

そこで介護まめ家では「本当に施設に入りたいんですか?」あるいは「今はとても大変ですけど、何かをすれば施設に入らなくて済むんじゃないですか?」という過程の部分をしっかり提案していきます。

確かに施設に入るまでの過程を大切にしないと、後々ご家族が傷つくことになりかねませんね。

例えば「昼間顔見知りの人がいる中で過ごすことで元気になるかもしれないので、一週間まめ家に泊まらせてはくれませんか?」といった提案をすることで、ご家族も様子を見に来る事もできるし、本人も自分が家に帰れないということに折り合いをつけるだけの時間も取れます。
結果だけを見るのではなく過程をしっかり踏む介護をしていかないといけません。契約関係だけの介護ではそこで宛てにしてもらえないのです。

現場のモヤモヤを共有し合うセミナー

介護まめ家主催のセミナーがあるとお聞きしたのですが、
そちらのターゲットや狙っている効果をお教えいただけますか?

そうですね。今は年に一回開催しているのですが、特に今年のセミナーは結構いい内容だったと思っています。
三好春樹(「関係障害論」著者)さんと中村仁一さん(「大往生したけりゃ医療とかかわるな」著者)といったメインの講演があって、それ以外に現場の人たちの声を二つくらい紹介して頂きました。
人と人とが関わっていく介護の仕事は、綺麗な話で語られることが多いのですが、私自身は人が死んでいくのにそんな綺麗なはずがないと思っています。
介護の現場は本来もっとドロドロしていて、皆さん様々なことに苦悩しながら毎日必死で転がっています。
そういった日々モヤモヤしたものを抱えている介護に携わる方に向けて、綺麗に作られた話をされても、「すごいな」という感想だけで、後には残りません。
それよりはむしろ「立派に頑張っている人でも、こんなくだらないことでモヤモヤしているんだ」という現場の実態を同じ業界の方々と共有していきたいと考えています。

地域の活性化と「介護まめ家」

これから先「介護まめ家」の活動としては、どのように展開されていくご予定なのでしょう?

これから先「介護まめ家」の活動としては、どのように展開されていくご予定なのでしょう?

そうですね。最初はデイサービスとケアマネージャーの相談所をやっていたんですが、去年訪問介護を始めました。
これも手を広げたように見えるかもしれませんが、私たちとしては手を深めたと感じています。
今のような小さな建物を増やしてみたところでご利用者の数が30人から60人になるだけで、600人を助けれるわけではありません。
そういうことを踏まえて考えてみてもビジネスとして規模を大きくするのではなく、私たちは現場の人間としてよりサービスとしての手を深めていくしかないと感じています。

よりご利用者とより密接に関わっていける環境を作り上げていくというわけですね。

もし手を広げるという事であれば、「地域を活性化させる為の、高齢者同士の繋がり」を作る為にはどうすればいいのかという考えはあります。
例えば今も数人で乗用車に乗り、喫茶店まで行っている老人の中の一人が、「杖を突き始めた」とか「スタミナが無くなった」といった、些細なことがきっかけでその輪から外れてしまった場合、次に行くところがデイサービスなんですね。
喫茶店に行っていた方が、次は介護施設に来る。じゃあその真ん中はどうなのかという事を考えた場合に、その問題を解決するためには、私たちのサポートだけではなく周りの老人の方々の協力が必要不可欠になります。

よりご利用者とより密接に関わっていける環境を作り上げていくというわけですね。

これからは「私たちがどのように支援していくのか」ではなくて、「高齢者同士が繋がり合って立ち上がっていく為にはどうすればいいのか」という事に重きを置いて考えていかないと、いつまでも援助する側が主役で物事を行っていても、根本的な解決にはなりません。高齢者の問題は高齢者がやっていくしかないんです。
介護保険に頼り切って介護を行うのではなく、高齢化社会をどう生きていくのかという事がこれからは重要になってくると考えています。

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